薬剤師の収入が異常なコトになっている。マイナビ・リクナビ・朝日学情ナビの2015年のデータをもとに算出した業種別初任給を見ると調剤薬局がもっとも高額で、つぎに高額なのがドラッグストアとなっている。業種別の平均初任給はコンサルファーム234,693円、ドラッグストア241,484円、調剤薬局267,200円となっている。
しかも、新卒採用を行っている全企業を初任給の高い順に並べると上位30社のうち15社が調剤薬局・ドラッグストアを生業とする会社になっている。高額初任給1位はアベノミクスの恩恵を受けてこの世の春を春を謳歌している日本商業開発株式会社の50万円で、2位は企業向けにの会計・人事システムなどを提供しているワークスアプリケーションズの428,571円。そして3位に輝くのが九州で若園調剤薬局などを運営している株式会社九州クリーンメディカルで初任給は416,000円。
なぜ、これほどまでに薬剤師の給料が高くなっているのか?その背景には調剤薬局業界のバブルがある。調剤バブルは医薬分業という国策が引き金となり現在も膨らみ続けている。医薬分業とは患者を診療する病院と薬を処方する薬局とを分離する事によって医療の質と安全を向上する制度。日本では1951年にGHQの指令によって導入された。1956年には医薬分業法が正式に施行されたが強制力のある法令ではなかった為に医薬分業はなかなか進まなかった。その後、病院による「薬漬け患者」が社会問題化した為に医薬分業は国の抱える大きな課題となった。そこで政府は1974年の薬価改定で院外処方を優遇する方向に舵を切った。
その結果、院外処方は院内処方に比べて10倍近くの調剤報酬が加算(初診患者が3剤を7日処方された場合の保険点数は院内12点に対して院外94点)されることとなった。これによって院内処方は採算があわなくなり減少の一途を辿ることとなった。そこで台頭してきたのが門前薬局。病院の前には破竹の勢いで門前薬局が開業し、薬局の数はいまやコンビニの数を上回るまでに至った。
薬剤師の高収入を支えているのは調剤バブルの他にも高齢化社会というビッグウェーブがある。ドラッグストア・調剤薬局を運営する企業は「乗るしかない このビッグウェーブに」と鼻息を荒げて新規出店を進めているので薬剤師が(特に地方では)慢性的に不足している。各店舗ごとの薬剤師の数は取扱い処方箋40枚/1日につき最低1名と厚生労働省によって定められている。さらにドラッグストアにおいても「リアップ」や「アレグラFX」などの第1類医薬品を販売するには薬剤師の常駐が義務づけられているのだ。つまり調剤薬局もドラッグストアも規模を拡大していくためには薬剤師の確保が必須なのだ。
そんな中で調剤薬局・ドラッグストアを悩ませているのが薬剤師国家試験の合格率だ。いまや企業から引っ張りだこの薬学生も他の学生同様に就活を行い内定を貰うのだが、内定を貰い無事入社した新入社員が薬剤師試験に落ちるというケースが多々あるのだ。薬剤師の国家試験は毎年3月上旬に行われるのだが企業としては薬剤師国家試験に受かるのを前提として薬学生へ内定を出す。しかし薬剤師国家試験の合格率はここ数年約60%と低迷しており内定者の大半が薬剤師国家試験に落ちてしまう可能性もある。そんな状況なので企業は薬学生の採用枠を多めに設定する必要がある。すると必然的に薬学生は売り手市場となり企業を選り好みするようになる。そうなると知名度の低い企業や地方の企業は金にものをいわせないと薬学生に振り向いてもらえないという状況が生まれる。
このように複数の要因が偶然重なりあった結果、薬剤師の初任給はついにコンサルファームを抜いて業界一位に輝いた。今後この状況が続くかどうかは国の政策に大きく左右される部分もあるのでなんとも言えない。さらに薬剤師は初任給こそ高額だが年収600万〜700万で頭打ちになるという課題もある。今後、薬剤師は厚生労働省が推進する地域包括ケアの中でどれだけ存在価値を高めていけるのか、どれだけ高齢化社会に貢献できるのか、個々の薬剤師がこれまで以上に高い意識を持って職務に取り組む必要性があるだろう。
初任給が高収入な上位30社に入った調剤薬局・ドラッグストア15選
No | 企業名 | 初任給額 | 業種 |
---|---|---|---|
3位 | 株式会社九州クリーンメディカル | 416,000円 | 調剤薬局 |
4位 | ラッキーバッグ株式会社 | 400,000円 | 調剤薬局 |
4位 | 株式会社センテ | 400,000円 | 調剤薬局 |
10位 | 株式会社ウェルネス湖北 | 375,000円 | ドラッグストア |
12位 | 株式会社飛鳥調剤薬局 | 370,000円 | 調剤薬局 |
13位 | 株式会社セキ | 361,000円 | ドラッグストア |
15位 | 株式会社勝山薬局 | 360,000円 | 調剤薬局 |
17位 | 株式会社クスリのサンロード | 357,142円 | 調剤薬局 |
18位 | MiK株式会社 | 350,000円 | 調剤薬局 |
18位 | 株式会社ザグザグ | 350,000円 | ドラッグストア |
18位 | 株式会社寺田薬局 | 350,000円 | ドラッグストア |
18位 | 有限会社エム・ケイ・メディカル | 350,000円 | 調剤薬局 |
24位 | 株式会社カワチ薬品 | 343,320円 | ドラッグストア |
25位 | 有限会社ウイングメディカル | 340,000円 | 調剤薬局 |
25位 | 有限会社まつえファーマシー | 340,000円 | 調剤薬局 |